ジェネレーションXのための宗教社会学

Sociology of Religion for Generations X and Y

Sociology of Religion for Generations X and Y

http://www.amazon.co.jp/dp/1845533038/
という本を院ゼミで読んでおります。
1970年前後から1989年ぐらいまでに生まれた世代をジェネレーションXと定義し、その世代が、伝統宗教には関心が薄れているものの、映画、インターネットなどのポピュラー文化でいかに「スピリチュアリティ」を探究していっているのか、といったことをモチーフにした、読みやすい宗教社会学の入門書と言えそうです。
しかし、日本の状況を振り返ってみると、さらなる議論が必要だなと思わせてくれる本でもあります。
まず、日本も含めた、東アジアの伝統的・慣習的な宗教行動は、著者のスコープではほとんど説明され得ません。
また、過去の様々な文化から新たに構築される宗教を「ハイパーリアル宗教」と呼んでいますが、これも、井上順孝先生がずいぶん前に「ハイパー・トラディショナル宗教」と呼んでいたものに非常に近いです。
また、消費社会論を引きながら、宗教性における「個人の選択」の増大を説きます。しかしながら、「個人的関わりが可能になった」という「神話」こそが、世俗化「説」の帰結なのであって、欧米人も含めて、実際には、宗教的選択は、言われているほどは自由になっていないと思える場面もあります。たとえば、近親者の葬儀のやり方について、たとえ現代人でも、現実にはそれほど選択の自由はないでしょう(いわば日本のウォールマート=イーオンが葬儀費用の「相場」を表示したことに反発があったことを思い起こしました)。
また、「ショッピングモールは消費社会の礼拝堂だ」式の議論も見られますが、こういうことは拡大していけばキリがないのであって、「どの文化現象にもシンボルによるアイデンティティ付与と成員統合の機能がある」ということに他なりませんし、ならば文化社会学でも良いということになってしまいます。あるいは、フィールドによって枠組みを変えるという方策になるでしょう(2007年の拙著を『スピリチュアリティ社会学』ではなく『セラピー文化の社会学』としたのは、学校カウンセリングのようなものも等しく扱いたかったからというのも背景にあります)。
さらに言えば、ゼロ年代以降の格差社会では、もはや消費への欲望によっては、若い人が労働へとモティベートされない時代に突入したのかもしれません(阿部真大先生のご意見にヒントを得ました)。いずれにせよ、若い世代の(が)新しい社会学を構想する必要はありそうです。