堀江宗正先生著『若者の気分 スピリチュアリティのゆくえ』/スピリチュアル・ピープルの現代的実像とは…

ニューエイジ宗教は必ずしも新しくない」等と言われて久しいですが、現在の日本で、スピリチュアルを信奉する、しかもその中でも若い人の実像とはどんなものなのでしょうか。この本では、その難しいタスクにチャレンジしています。

スピリチュアリティのゆくえ (若者の気分)

スピリチュアリティのゆくえ (若者の気分)

宗教学者である著者氏は、主にmixiなどを通じて、スピリチュアルに関心のある4名の大学生とのインタビューに成功し、それをもとに対話的・共感的に議論を進めています。(このシリーズの性格を反映し、学術書というよりは、著者の個人史や批評も交えた「読み物」という体裁となっています。)
登場する風太君、音葉さん、美月さん、神生君(いずれも仮名)は、それぞれ、オーラ見える系、アート系、宇宙人コンタクト系、拝み屋系ともいうべき自身のスピリチュアル世界を育んできています。また、全員に何らかのかたちで親族内に新宗教信者がいる(いた)こと、消費されるスピリチュアル・ブームには次第に懐疑的になっていったことなどがおおむね共通しています。しかし、著者氏も含めて、この本で登場する人全員が、霊的なことがらをめぐり、「『ほんものの何か』がどこかにはある」ということは疑っていないように見えます。また、家族内に新宗教の背景があることが多いというのは、堀江先生の個人史とも共鳴しているそうです。
そして、本全体を通してしばしば浮上してくるのが、彼ら/彼女らが、スピリチュアルについて、同年代の友人達には秘密主義的な態度を取ることが多いということです。
こう見てくると、「同世代にも秘密にするような、特定でマニアックな趣味を共有する、それぞれは別個の若者についての記録集である」という印象も持ってしまうかもしれませんが、著者氏は若者たちに実に注意深く耳を傾け、インタビュー対話記録にも丁寧な振り返り作業をおこないながら論じています。
全体を通じて著者氏は、人間がスピリチュアリティを探求するクエストの可能性に大きな期待をかけているように思えました。時代が変わっても、目に見えないものへの想像力によって人間の文化や意識が形づくられるのは変わりません。この本は、個人に即しながら、スピリチュアリティをめぐる「連続と革新」を見つめる作業なのだと思いました。それは、博士論文で心理学史をとりあげた堀江先生による、人間の精神の営みの「連続と革新」を解釈するこころみでもあるのだと思いました。
この本は「ニューエイジャーって一体誰? どこにいるの?」という疑問にもある程度答えるものになっています。著者氏自身のreflexiveな振り返りも交えたハーフ・アカデミックな作品であるとは言え、ここで展開されているような、対象者の詳細なリアリティに迫った丁寧な作業こそ、現代宗教研究が積み重ねるべきものでしょう。