自己啓発セミナー今昔/神谷光信先生著『ワーナー・エアハードとest』

小久保温先生に間接的に教えていただき、神谷光信『ワーナー・エアハードとest』2011、を入手、読了しました。目下ネット通販のみの扱いです。
http://www.mybookle.com/indiv/bookle/2553
日本ではあまり知られた名前とは言えませんが、アメリカ1970年代の自己啓発セミナーと言えば、ワーナー・エアハードが創始したエアハード・セミナーズ・トレーニング通称 estが代表格であり、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント(人間潜在能力開発運動)の大衆化に大きく貢献した存在だと言えるでしょう。
著者氏自身、estの後身、ランドマーク・エデュケーションの日本での活動に関わっていた経験があり、さらにこの本は、キリスト教研究的な視点を交えて書かれています。
日本では類種の邦語文献がないという意味でも貴重な一冊です。内容は、エアハードの半生、estトレーニングの内容についても書かれています。1933年からの歴史がある「エラノス会議」(東西の宗教系知識人会議)に、2006年にエアハードが呼ばれておこなった講演内容や、受講生にはナミさんの名前で親しまれていた、日本のランドマーク・エデュケーションのトレーナー小南奈美子の半生(初めて知りましたが、かなり波瀾万丈な人生を送った方のようです)についての情報があるのも貴重だと思います。
しかし、est関連文献レビューなどもありましたが、大半は1970年代の文献に限られているのもまた事実。アメリカの過去の一ムーブメントを踏まえ、現在の社会学徒である我々は、何を学び何を研究するべきなのか。そういうことを読み終わって思いました。
estのような、高額・大人数・個人向けの、いわゆる自己啓発セミナーは衰退してしまいました。しかし、教育では自尊心の涵養が叫ばれ、組織の研修にもグループワーク的な手法が使われたり、また、市民運動の学習現場でも「世界が百人の村だったらワークショップ」などが用いられたりするようになりました。estや自己啓発セミナーは衰退しても、「1970年代心理療法の精神」は、かたちを変えていろいろな場所で受け継がれているようにも思えます。なかなか難しいですが、そのあたりを追求してみたいと思っています。