大学院生活のTips/コツ(院生、アカポス…)

大学院生の皆さんに贈る、院生生活のTipsです。
0 Publish or Perish(出版するか滅びるか)
何かひとつだけ挙げろと言われればこれですね。少なくとも、専任になるまでは、博士号を取得することと論文を量産することが求められます。もちろん人生にはアップダウンはつきものですが、ダウナーな時期は「本を1ページだけでもいいから読む」「文章を1行でも良いから書く」の精神で!
1 アルバイトはほどほどに
確かに生活もありますので、ある程度収入源を確保したいのはとてもよくわかります。しかし、研究というのは一定程度の時間のコミットも必要とされます。教育関係のバイトでも、週2回合計4〜5時間がせいぜいではないでしょうか。大学院の1週間のスケジュールが決まるまではアルバイトを確定させないほうが良いかもしれません。あと、土日は、学会や研究会などがあるので、できればアルバイトは入れないほうが無難です。
2 学部業務は研究者になるためのキャリア教育の機会
もし教員からTAや実地調査の手伝いなどを求められた場合、なるべく応じたほうが良いでしょう。それは多くの場合、あなたをコキ使おうと思っているのではなく、研究者になるための訓練としてあえて依頼していることも多いものです。
3 授業・演習において何が重要かを決めるのは教員
大学院では、学部のようには「授業評価アンケート」もないことが多いですし、自分の意見を反映してもらえる余地は、学部時代より小さくなったとみるべきでしょう。授業・演習の題材、内容、進め方などについてクレームしたりすることは、よほどの理由がない限りは避けるべきであり、やりたい授業は教員になった暁にやりましょう。また、既に受講した修士1年向けの基礎論などを除き、指導教員のゼミには継続して登録しましょう(学年が上になったり、修論が近づいてきたら、出席は多少は大目に見て下さるはずです)。
4 できるだけ教員とは会って話しましょう
特に学生から教員に通常の業務外のことがらをお願いしたりする場合、できればオフィスアワーなどを尋ねて直接話をしたほうが良いでしょう。オフィスアワーの情報はたいていどこかに公開されています。
5 指導教授は原則として変えられないものだと考えましょう
どの研究科でも数年に1名ぐらい、指導教授を変えたいと言い出す学生が見受けられるようです。が、指導教授が退職する・移籍するなどの相応の理由がない限りは、指導教授の変更は容易ではないと覚悟しておいたほうが良いでしょう。
6 ネットでの同業者への愚痴・悪口はやめましょう
ネットというのは思ったよりも多くの同業者が読んでいるものです。あなたの実名がわかる文脈においては、先生、院生など同業者についての愚痴、悪口は避けたほうが無難です。逆に、実名ブログあるいは学会発表などにおいて、他者の著書・論文について建設的に批評することはむしろ歓迎されることでしょう。

第85回日本社会学会大会

に行ってきました。一番印象的だったのは仁平典宏先生講演会でした。真摯な親切心の贈与なはずのボランティアは、日本では時に有償化され、ネオリベのもとで自分探し化し、かつNGOの台頭によりさらに収益化、市場化されてしまったそうです。仁平先生は、限界を認めつつも福祉国家モデルに依然希望を託している模様でした。

一番観客を集めたのは宮台真司先生、小熊英二先生も交えた「ポスト3.11の社会学理論」シンポジウムだったのではないでしょうか。民主的な社会構築のために日本ではパターナリズムでもってコンセンサス会議などを行うべきとの宮台先生と、"日本=ダメ論"には違和感を覚え、パターナリズムと言う必要はなく、エンパワーメントで良いのではとする小熊先生とのあいだで論争が起こり、大いに盛り上がったと言えるでしょう。

その他、科研費を取得して、薬物依存回復支援施設でフィールドワークしている先生方5名のセッションなどもあり、たいへん勉強になりました。

全体的には、ネオリベグローバル化に抗するために、再び政治化が進んでいる感じがした社会学ワールドでした。(日本の論者は表面上はそこまで露骨ではありませんが)

樫尾直樹先生編『文化と霊性』

という本が出ました。間もなく書店にも並ぶと思われます。

文化と霊性

文化と霊性

わたくしも1章を寄稿させていただきました。
樫尾先生ならびに慶應大学出版会の皆様、貴重な機会を与えていただきありがとうございます!

Think Simple by ケン・シーガル

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

この本の装丁があまりにシンプルかつ素敵だったので、ブログのデザインも変えてみました。

岡本亮輔先生著『聖地と祈りの宗教社会学』

聖地と祈りの宗教社会学―巡礼ツーリズムが生み出す共同性

聖地と祈りの宗教社会学―巡礼ツーリズムが生み出す共同性

ひとこと! これは十年に一度の名著です。
現代宗教は「世俗化論」でも「宗教復興論」でもその姿を完全にはとらえきれず、筆者氏はその文化・国における文脈依存的な状況の中で、新たな宗教性が再帰的に構築されてゆくプロセスに着目しています。
ざっと見た読後感としては、個人主義の限界と、コミュニケーションの新たなかたち、というあたりにこの研究の新しさがあるような気がしました。過去の宗教社会学の議論によく目配りしながら、それを現代社会論を下敷きにしつつ乗り越え、かつ理論面と実証面の両方を兼ね備えた、希有な研究であると言えましょう。
特に、世俗化論と宗教復興論で引き裂かれているこのジャンルに、第三の視座を示したのは、非常に、もどかしいものをすっきりさせてくれた感がありました。
1979年生まれの岡本さんによる、きわめて挑戦的かつ説得的な一冊だと思いました。宗教社会学の若い世代は有望です!

大槻ケンヂさん、勝間和代さん、そして小田嶋隆先生のハウトゥ本

大槻ケンヂさんの新刊が出ていたので、最寄りのヴィレッジヴァンガードで購入しました。

サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法

サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法

往年のファンには、聞いたことのある話も多いですが、サブカルで生きるには? をテーマとしたところが斬新です。サブカルの世界においても、意外とチームワークが大事なのだとも説いています。
勝間和代さんの本を久しぶりに購入しました。一躍時の人となり、その後、人気がしぼんでいったプロセスまで、勝間流の分析眼で解説しています。
そしてなんと、コラムニスト小田嶋隆先生も、初のハウトゥ本を発刊です。
小田嶋隆のコラム道

小田嶋隆のコラム道

アメリカ西海岸文化、そして日本人とアメリカ

目次
1 カリフォルニア生活
2 アップルコンピュータ
3 アメリカンミュージック
4 宗教的イノベーション
5 私たちの中のアメリ

社会学の教員をしております小池と申します。…私は、洋楽や洋画に興味があり、そこから英語が好きになり、大学2年の時にカリフォルニア大学デイビス校に、大学院の時にカリフォルニア大学サンタバーバラ校に留学しました(ともに1年弱ほど)。カリフォルニア大学デイビス校で、第7希望ぐらいで「宗教社会学」の授業を取り、そこから社会学者になろうと志しました。

1 カリフォルニア生活

東海岸に入植したアメリカ人にとっては、Go Westで西にどんどんフロンティアを拡張していって、そのどん詰まりがカリフォルニアでもあります。アメリカのイノベーションの多くは、東海岸で生まれ、西海岸で大衆化するといった傾向があります。
よく言えば進取の気性に富んでいますが、悪く言えばあまり伝統を感じさせるものはなく、結構カオスです。ヒスパニックも多いので、公共の掲示、ケーブル放送などの面では、英語・スペイン語の2言語文化になってもいます。
ハリウッドやロスの印象が強いカリフォルニアではありますが、実際には「農業県」でもあり、「カリフォルニアが国として独立しても、世界で何番目かの農業国になるほどだ」といったことがよく言われていました。

実際のカリフォルニア生活はと言えば、とにかく、だだっ広く、クルマがないとまともに生活できない! という感じです。サンフランシスコのような例外的な場所を除けば、公共交通機関も発達していませんし、日本人の感覚で言ったら大半の場所はイナカです。よく、飛行機のロサンゼルス便で、ほとんど予定も立てず、向こうに行ったら何とかなるだろう、みたいな日本人旅行者の方が居ますが、大丈夫なんでしょうかとちょっと心配になります…「南カリフォルニアは雨が降らない」という歌がありましたが、確かに「砂漠のような気候だ」と現地の人も良く言います。
大学街では、とにかく留学生も多いですし、そもそもアジア系アメリカ人の数も多いので、まず日本人であっても、肩身の狭い思いをするということはないでしょうね。

2 アップルコンピュータ

さてそのUCデイビスで出会ったモノのひとつは、マッキントッシュでした。1991年の夏に最初に行ったのですが、当時、大学のコンピュータールームがすべてマックで、10分ほどそこのアルバイト君に保存、コピペなどの仕方を教わったらすぐにマスター出来、それ以来20年間、私はコンピュータはマックしか使っていません。

シンプルでわかりやすい、誰にでも使えるインターフェース、というのは、やはりカリフォルニア的であると今でも思います(ある種の「ノウハウ平等主義」ですね)。ガレージで起業し、イノベーションを次々と生み出し、しかし晩年は代替医療でガンと闘い、後任のCEOはゲイ男性、というスティーブ・ジョブズは、やはりカリフォルニアン・イデオロギーをもっとも体現した人物でありましょう。Designed in California, Assembled in Chinaと、すべてのアップル製品に誇らしげに書いてあるのは印象的です。世界で最も成功した会社になったアップルですが、ヤッピーの対抗文化精神は、反権威というところでかえってネオリベラリズムと結びつく等の観測は、鈴木謙介先生のご指摘のとおりだと思います。

3 アメリカンミュージック

1991年留学時には、ラジオから偶然DJ Jazzy Jeff & the Fresh Prince(のちのウィル・スミス;カリフォルニア出身ではないですが)が流れてきて、ヒップホップも浴びるように聴きました。ブラックミュージックと、細かくジャンル分けされたラジオ局はアメリカの偉大な文化だと思います。私は現在でもヒップホップファンなのですが、90年代のアメリカのラジオ局がなければ、こんなにヒップホップずきにはなっていなかったと思います。

2003年に、個人旅行で、オークランドエドウィン "Oh Happy Day" ホーキンスの教会のゴスペルワークショップに1週間参加したのも、黒人音楽と宗教世界とのつながりを体験する良い機会となりました。

4 宗教的イノベーション

社会調査的に言うと、カリフォルニアの宗教生活については、伝統的キリスト教がやや弱く、そのぶん様々な「宗教的イノベーション」「スピリチュアル・イノベーション」が盛んなところでもあります。最初にカリフォルニアに降り立った時に、UCバークレーに遊びに行ったのですが、その時最初に話しかけてきたのが…新宗教の布教者で、びっくりしたこともありました。瞑想やヨガをはじめとする様々な東洋系宗教も、一定の人気はあります。しかし「カリフォルニアでもっとも盛んな『宗教的イノベーション』は『無宗教』である」との観測もあり、期待して行くと、信仰熱心な人はさほど多くはないというのも事実です。

カリフォルニアの宗教的イノべーションのひとつのメッカが、ビッグ・サーにある「エサレン研究所」です。これはいわゆるヒューマンポテンシャル運動(人間潜在能力開発運動)の拠点となったグロウス・センター(成長センター)として残っている(数少ない)もののひとつです。現在でも、さほど高くない料金で、さまざまな心理療法やボディワークなどが受けられます。自己啓発セミナーのいわゆる「洗脳」技術も、こうしたカリフォルニアの様々な文化的実験の産物と言えると思います。私もエサレンの2泊3日の入門プログラムに参加しましたが、オカルトずきの人、ゲイ男性なども居たり、温泉やオーガニックフードの食堂もあったりして、たいへんカリフォルニアらしい文化体験でした。

5 私たちの中のアメリ

一度でもアメリカに住んだことのある日本人は、現実のアメリカ人は日本で想像するものとはちょっと違うということに気づくと思います。見てくれの良い人、おしゃれな人なんて、多分東京のほうが多いんじゃないでしょうか。レストランやお店などで、露骨に差別的な扱いを受けることもまれではありません。アメリカンドラマ「MADMEN」や「24」にもかなり人間不信なトーンがありますが、アメリカ人は「抽象的な他者にはあるていど信頼があるが、身近な他者のことはあまり信用していない」文化のような気がします。日本は逆に「抽象的な他者は信用していないが、身近な他者のことは結構信頼している」文化だと思います。陪審制、裁判員制度に対する両国の世論にも、それがはっきりと現れていると思います。

というわけで、アメリカ文化が好きで、つごう2回も留学してしまい、カリフォルニアからの影響もきっと強い私ではあります。が、文化としてのアメリカには今も大きな興味をもっているけれども、現実のアメリカ人たちと長期にわたって友好な関係を築くということには失敗したかな、という思いもいっぽうではあります。
映画でも音楽でもコンピュータでも、3億人もの人が住む多文化な社会で頂点に立つものが、わかりやすく優れているものでないわけがありません。しかし日本も、たとえば私の分野である社会学で言えば、1億2千万の人口の中から、それなりに良質なもの(研究)を生産していると今では思えます。私自身は、アメリカ研究専攻ではありませんし、論文や著作も基本的には日本でのフィールドワークをもとに書きました。

日本人にとって、カリフォルニア人、いやアメリカ人という存在は「ブラウン管の中のアメリカ人」「全米トップ40の中のアメリカ人」で居てもらったほうが、ユメが消えなくて良い時もある、というのが、変な言い方ですが、私の現在の結論的印象です。

番組の成功を心より祈念いたします!

(2012年に、あるラジオ番組の特集にリスナーとして投稿したメールの抜粋です)