本田由紀先生著『若者の気分 学校の「空気」』

俗に「中2病」などと言いますが、現在の中学2年生たちをめぐる状況は、どうなっているのでしょうか。本田先生のこの本ではそれを、神奈川の中学2年生および親御さんたちへの大規模なアンケート調査から論じています。

学校の「空気」 (若者の気分)

学校の「空気」 (若者の気分)

著者氏は、現代の日本の学校では、競争的な側面が後退し、人間力(生きる力)が問われるようになってきたと冒頭で述べています。しかし、調査結果から見ると、直接にはそうは見えない感じもします。
この調査で明らかにされていることは、以下の通りです。
・学力の良し悪しは、親の経済力との相関が高く、男子にとってより重要であり、学力が高い子は学校を楽しいと思う傾向にある。
・成績と言うよりも、学校での友だち関係の充実度が、学校の楽しさを規定している。
・教師と関係良好なのは、学力が高く、親の経済力があり、外向的な生徒である。
・出世志向は、男子、ならびに大学進学希望者において強い。専門学校希望者は夢を追いかける志向があり、将来を何も考えていない生徒は「低空飛行」な人生を甘受しているようだ。
・・・こう並べてみると、わたくしが中学生だった頃と、大きくは変わっていないようにさえ思えます。
著者氏は日本の学校のもつ「過度で不自然な強制性や閉鎖性」を批判しているように見えます。しかし、ではどのような義務教育の場が著者氏の理想なのでしょうか。
この本で一番印象に残ったのは次の一節です。学級内の「地位闘争」が生徒たちにとって息苦しいものとなっている、というような話に続けて、著者氏はこう述べます。
「教師は、生徒の間に形成されやすい『地位』の上下をむしろシャッフルするような介入を行い、特定のコミュニケーション様式のゆえに学校内部で疎外されがちな生徒を包摂してゆくように行動することが必要である」(p. 91)
そうだとするとたとえば「イケてない子たちを今日だけはクラスの主役にしようDAY」などを学校で導入するのでしょうか。エンカウンターグループ的に運営される学級があったりしたら、それはそれで興味深そうではありますけれども。
著者氏も冒頭で述べていますが、日本の学校は海外の学校と比べていろいろな意味でより「包括的」であるそうです。しかしまさにそこに諸問題の根源があるのではないでしょうか。もっと学習だけに機能特化した、ホームルームも学園祭も遠足もない、全員私服で、昼食時も好きなものを食べて良い、ドロップアウトどうぞご自由に… そんな学校にしたら、今よりは息苦しい場でなくなっていきそうな気がします。しかしそれは、日本の学校の良さも失うことになるのかもしれませんが。