陰謀論、悪魔主義、そしてカルト論争

と学会関連の本で、こういうものがあります。

トンデモフリーメイソン伝説の真相

トンデモフリーメイソン伝説の真相

科学ライターの皆神龍太郎さんと、この分野の著作も多い有澤玲さんの共著で、「カーネル・サンダースはメーソンだったのか?」といった神話を丁寧に解きほぐしています。
フリーメーソンと言えば、日本では期せずしてオウム事件前後にテレビでもその名前が聞かれるようになりましたが、ロータリークラブのような慈善団体的なイメージもあるかと思えば、陰謀論系の本では必ず登場する団体名でもあります。
この本では、フリーメーソン陰謀説は、18世紀末の、オーギュスタン・バリュエル、ジョン・ロビソンらの根拠のない本から本格化したものであるとし、基本的には妄想のたぐいに過ぎない、と脱神話化しています。
有澤さんのあとがき、文献リストも興味深いものです。有澤さんは、せっかく正しい情報で書いたのに、編集部によって、陰謀論まみれの本に作り替えられてしまった企画も過去にあったことを示唆しています。
こと宗教やスピリチュアルに関する事柄というのは、思い込みが激しいジャンルでもあります。特に新宗教について教えていると、90分しっかりかけて「マインドコントロールは社会化のプロセスにほかならない」と講義しても「やっぱりカルトのマインドコントロールは怖いと思った」といった感想が平気で出てきます。
そんなところから思い出したのがこの一冊。
アメリカ「新宗教」事情

アメリカ「新宗教」事情

この本は社会学者のブロムリーらが、「カルト=洗脳説」を見事に脱神話化した古典的著作で、本自体は(若干の誤植などあるものの)まともな訳本なのですが、この本の帯に
「いまアメリカ全土を覆う『新宗教』の波とは何か?」
とややセンセーショナルに書いてあるのです。この本は、「新宗教アメリカ全土を覆ったりなどしていない」という内容なのに!!
ある人の根拠のない妄想が、別の人の妄想を刺激し、本に書かれ、それが次第に社会的現実であるかのように思われていく。UFOコンタクティ、悪魔崇拝ヒステリアなどには典型的な構図ですが(注1)、もしかしたら人間の他者認知、世界認知は、21世紀の今になっても、それほど変わっていないのかもしれません。あらゆる人々に平等に情報を供給する機会となりうるインターネットも、今や陰謀論の巣窟となっているのは言うまでもありません。

(注1)筋肉少女帯の「レティクル座妄想」という曲は、そうした妄想をヒントにしています。