エヴァ・イロウズ『冷たい親密性:感情資本主義の形成』Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism by Eva Illouz, 2007[2016.7.11改訂追記]

を現在大学院ゼミで読んでいます。(参加に興味ある方はご連絡ください)
イスラエル在住の社会学者(女性)だそうです。

Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism

Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism

この書では、もはや感情文化と資本主義は分かちがたく結びついているとして、それを感情資本主義と呼び、主に心理学的言説を中心に分析しています。
1章では、心理主義の広がりに対して、企業的な文脈における「コミュニケーション活用」論理が、ひとつの時代精神となってきたこと;心理主義フェミニズムとの微妙な連携によって、性的解放と精神的健康が重要なテーマとして確立したこと、などを述べています。
2章では、フロイトに由来するトラウマ・ナラティブと、ロジャーズ、マズローらの自己実現ナラティブとの競合・融和・定着を述べ、セラピー的精神はもはや「感情資本」「感情ハビトゥス」ですらあると分析しています…
3章では、オンラインマッチング(出会い)サービスは、心理学と消費主義が交錯する場であり、希少性にこそ価値があったロマンティック概念を塗り替えてしまうほどだ、と述べています。しかし主観で自己を再構築するものの、プロフィール写真では身体性が関わってくる…ネット出会いでの失望は、ロマンスが結局のところ、身体的直観に基づくものだからだ、と。
結論部では、心理学によって公私の境界はあいまいになり、自己実現や感情生活こそが道具的理性にとってのコンパスとなる…全体として、経済的な損得感情と[ネットなどでの]自己幻想を調停するツールが心理学的言説である、と示唆しているようです。
ざっと読んだ感想は3つあって、(1)全体にセラピーの側の宣伝する効用を額面どおりに受け取りすぎですね。(2)既存の議論とかなりの程度重なってます。が、英文の社会学の単行本レベルで、ある程度理論面も補強しながら論じているのは助かりますし、一定の功績かもしれません。(3)やはり1980年代に、セラピーは功利主義表現主義の両方に基づいている、と喝破したベラーらは天才ですね。
心理学だけで職場が上手く行ったら世話ないよ(笑)、と思う反面、全ての人の発言がいったんは共有されるような仕組み・場が職場にあったら良いなあ、とも思いますね。心理主義ディシプリン装置だ現状維持だと批判する前に、日本のブラックな職場は、そもそももう少し基本的なレベルで「解放」されるべきなのかもしれないですよね。