セラピーとスピリチュアルの融合。

癒しのエンパワメント―性虐待からの回復ガイド

癒しのエンパワメント―性虐待からの回復ガイド

著者はカリフォルニアでセラピスト修行をした、日本でもこの分野の第一人者だと思います。

最初に、癒しとは全体性の回復であることや、個人の無意識にアクセスして生命力を復活させることの重要性を指摘しています。

ちょうどマズロー欲求段階説のように、著者の主張する性虐待回復セラピーは、個人の身の安全性に始まり、過去のトラウマを振り返り、仲間のサポートを作り、生命力のある未来へと解放されていくというような、上昇的かつ段階的なプロセスを踏むものとして構成されています。

その背後にあるのは、徹底した個人主義的なスピリチュアル世界であるとも言えます。
もはや、家族や地域共同体も必要なく、同じ問題を抱える当事者同士の、あるいは、この問題に明るいセラピストの助けだけを借りて、イメージセラピー(催眠セラピー)によって、内なる子供(インナーチャイルド)と出会い、対話し、そのことを通じてトラウマを乗り越えていくのです。

この本の中で描かれているところの、被害者にとって、記憶が再統合され、自然や内なる子供と邂逅する瞬間は、シンボルに満ち、ほとんど回心体験と変わりません。じっさい、筆者は、自分の内なるパワーというものは、僧侶の語る仏心と同じかもしれないとさえ述べています。それは、宗教なき時代に、エンパワメントと共生の新たな文化を生み出そうとする営みですらあるのです。

苦難というものを契機に、聖なるものを追い求め、それが社会変革につながっていくとしたら、こうしたセラピーも立派な「宗教」なのかもしれません。おそらくそれは、セラピー的な文化の総体として、こんご蓄積していくことでしょう。被虐待系の文献としては、珍しく明るい読後感の本でもありました。