春休み読書中…

いただいたり、自分で買ったりしたもの。

現代文化の社会学入門―テーマと出会う、問いを深める

現代文化の社会学入門―テーマと出会う、問いを深める

山田陽子「心理ブーム--人はなぜ、感情をコントロールするのか」
社会学の入門書ですので、既存の議論が手際良くまとめられています。
自己の神聖性を尊重する傾向は現代の宗教ともいうべきものであり(デュルケーム)、そういう時代には、心をマネジメントする商品もまた価値を高める…
相手を尊重する感情表現を適切におこなうことは、その共同体に受け入れられる条件ともなる(ゴフマン)…
時代がつくる「狂気」 精神医療と社会 (朝日選書 825)

時代がつくる「狂気」 精神医療と社会 (朝日選書 825)

佐藤雅浩「『心の病』の戦後史--狂気の隔離からメンタルヘルスの啓蒙へ」
こちらも主張は明快でわかりやすかったです。
1960年代までは、心の病は一括して「ノイローゼ」と言われ、逸脱者のものとみなされやすかったが、
1970年代以降、心の病の種類が拡大し、誰もがかかる可能性のあるものとなっていった、とのこと。
若者の労働と生活世界―彼らはどんな現実を生きているか

若者の労働と生活世界―彼らはどんな現実を生きているか

中村英代「過食症
摂食障害には、治るために「がんばらなくてもいい」という言説と、「がんばらなければ治らない」という言説の両方が存在している。
そこに筆者は、近代の自己管理から降りてよいという立場と、自己管理をむしろ徹底させるべきだとの立場を対比させているようです。
高原基彰「日本特殊性論の二重の遺産--正社員志向と雇用流動化のジレンマ」
会社主義と日本型福祉によって、欧米の近代化の弊害を乗り越えた(かに喧伝されていた)日本。
しかし、グローバル化が進むなか、正社員/非正規雇用という「身分制」が明確化して、将来に希望がもてなくなってきています。
競争社会を批判すればネオリベ批判に、ネオリベの立場からすれば既得権益こそが批判されるべきとなります。
しかしどちらも問題の一面しか見ておらず、むしろ、流動性による不利益を低減しつつ、より創造性を生かす労働のあり方が求められていると著者は主張します。
いずれも刺激的な論考でした。
1970年代以降の、自己を過度に見つめ直す時代とは、心の不調にも敏感な時代であるのかもしれません。
最大の格差先進国アメリカは最大のセラピー消費国でもあるわけですが、カウンセリング的な姿勢は、暗に社会学では否定的に見られています。曰く、新たな時代の管理のツール、ネオリベからの逃避場である等(関係ないですけど、ATOK最新版は「寝織部」と言いました)。
しかしながら、不安な自己を癒すスタイルは、競争から降りたり、適合したり、あるいは自己モニタリングを徹底化させたりと、個々の社会学者が思っているよりは多様なのかもしれません。